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Wi-Fi 6 と IEEE 802.11ax の関係がモヤモヤ(2)

ちょっと前にサワリを書いた記事: 「Wi-Fi 6 と IEEE 802.11ax の関係がモヤモヤ」 ( https://nmizos.blogspot.com/2020/02/wifi6-and-ieee80211ax.html ) の続き:

IEEE 802.11は無線LANの国際規格。無印(?)から始まって,802.11a,b,g,n,ac,ax と,規格化の事情を知らなかったらワケがわからんだろう。さらに,adやayだってあるぞ。たぶん,みんな「ワケがわからん」と思っていることだろう。801.11の数字部分だけでも意味不明なのに,n → ac → ax と尻尾のアルファベットがさらに意味不明(※a)。そこに救世主登場。Wi-Fi 4,Wi-Fi 5,Wi-Fi 6 とシリアルなわかりやすい番号で呼ぶことにしようよ,と。うむ。考え方というか,ねらいとしては大賛成。標準化機関の規格番号を,一般消費者が知っている必要性なんかまったく無い。
けどね…。ちょっと釈然としない面も残っている。

  • 「Wi-Fi」ってWi-Fiアライアンスが認証した機器に付ける“ブランド”じゃ無かったのか?
  • 本当に Wi-Fi 6 = IEEE 802.11ax なのか?

一般のIT系ニュース記事でも,このあたりの区別はできていないようだ。

Wi-Fiアライアンスの発表以来どうもモヤモヤしていたのだけれど,公開文書『Generational Wi-Fi User Guide』( https://www.wi-fi.org/ja/discover-wi-fi からリンクしている)(※c)を見つけて,ようやく,一応は理解できた。でもスッキリはしていないで,モヤモヤしたままだ。

◆ちょっと乱暴な結論

わかったことを簡潔に記すと,つまりこういうことだ。

 Wi-Fi 6 ≒ IEEE 802.11ax        …(1)
 Wi-Fi CERTIFIED 6 ≠ IEEE 802.11ax  …(2)
 ∴ Wi-Fi 6 ≠ Wi-Fi CERTIFIED 6     …(3)

たぶんWi-Fiアライアンスは明言はしないと思うが,割り切って(3)を許容しちゃったところが今回の発表のおもしろくて怪しい点だろう。

◆解説

(1)を「≒」で書いた点をもうちょっと説明調で書くと,
「IEEE 802.11axに対応していて,加えてそれ以前の規格にも対応している(例えば,11acや11nもOK)な場合は,『Wi-Fi 6/Wi-Fi 5/Wi-Fi 4』とは書かずに最新番号の『Wi-Fi 6』だけで表す」
のだそうだ。
だから,「IEEE 802.11ax規格のことをWi-Fi 6と呼ぶ」というのは厳密には正しくは無いのだけれど,少なくとも11axには対応している(他の古い規格にも対応しているかもしれない)という意味から,
 Wi-Fi 6 ≒ IEEE 802.11ax …(1)
でいいかな,と。

また,Wi-Fi 6や,Wi-Fi 5,Wi-FI 4という呼称は,Wi-Fiアライアンスメンバ企業や,認証を受けた機器でなくても「自由に使っていいよ」とした点は評価したい。まぁ「Wi-Fiの名称は俺らのものだから好き勝手に使うな!」とは,もはや言えなくなっちゃったんだろう(※b)。
結果として,802.11axに対応した機器は,Wi-Fiアライアンスの認証を請けていなくても「Wi-Fi 6対応」と名乗れるということだ。
めでたし,めでたし。…なのだろうか?

ここまでは(1)についての説明。
とっても困った,というかズルイのが次。

 Wi-Fi CERTIFIED 6 ≠ IEEE 802.11ax …(2)

Wi-Fi 6 (や 5,4)は,Wi-Fiアライアンスの認証プログラムとは切り離されたものの,認証プログラムが無くなったわけではない。最新の認証プログラムの名称が「Wi-Fi CERTIFIED 6」。これは,IEEE 802.11axに準拠しているか?を確かめるだけのものではない。802.11ax準拠は必要だが,その他にも満たすべき要件が追加されているらしい。例えばWPA3など。つまり,Wi-Fi CERTIFIED 6の要件はIEEE 802.11axそのものではない。

ここまでの説明でおわかりと思うが,Wi-Fi 6は「ほぼ」IEEE 802.11axを指すのだが,Wi-Fi CERTIFIED 6は違うので,
 Wi-Fi 6 ≠ Wi-Fi CERTIFIED 6 …(3)
となる。

ちまたでは,携帯電話網の5Gと無線LANの5GHzが混乱を招いているらしいが,「6」も混乱の元とならなければいいが。既に「Wi-Fi 6E」が出ているらしいので,やはり混乱は必至かも。

  • ※a ‥ 【IEEE 802.11の規格番号について】
    国際標準化機関のひとつであるIEEEの802委員会の中で,無線LANについて扱うのが802.11ワーキンググループ。このワーキンググループが策定している規格が「IEEE 802.11」。一度規格を定めた後で,アップデートが必要になるので,元の規格との差分(amendmentと呼ばれる)を,IEEE 802.11a,b, …と順番にアルファベットを付けていく。「z」の次は,aa,ab,ac,…と続く。なので,IEEE 802.11bというのは2つめのアップデートで入った仕様のこと。この尻にアルファベットが付いたものは差分なので,数年おきに規格の本体(IEEE 802.11)に取り込まれる。そのため,IEEE 802.11a/b/g/nの様に年数が経過したものは,IEEE 802.11-2016(←本体が更新された場合は年号が付く)に既に統合されている。
  • ※b ‥ 【Wi-Fiという言葉について】
    「Wi-Fi」はWi-Fiアライアンスの登録商標になっている(日本国内)が,事実上は「IEEE 802.11(シリーズ)を使う無線LAN」の意味で一般名詞の様に使われている。登録商標を検索してみると,Wi-Fiアライアンスが2000年に「Wi Fi」(正確に記すと間はブランク)を登録している。さらに,その他に「なんとかW-Fi」や「Wi-Fiなんとか」という商標も,いろんな会社が山ほど登録しているのが実状。「Wi-Fi」が一般名詞化しているのを,Wi-Fiアライアンスも黙認というか追認しているのだろうと思う。
  • ※b ‥【Generational Wi-Fi User Guide, Wi-Fi Alliance】
    2018年の日付になっているけど本当だろうか?「Wi-Fi 6の様な番号付けで呼ぼうよ」との話が聞こえてきたのは2019年の後半になってからの様な気がしているが。

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