スキップしてメイン コンテンツに移動

ソフト開発じゃなくても“アジャイルしろよ!”と (IPA公開資料より)

最近,違うスジのところで独立して発信している情報が「なぜかシンクロしているな」と思うことがある。そのひとつが,この「ソフト開発じゃなくてもアジャイルしようぜ」というメッセージ。Gartnerレポート「アジャイルなI&O文化を実現する後続の5ステップ 」(INF-18-123 (G00343458), 2018年8月)では,I&Oチーム(要はインフラチーム)もアジャイルしろと言っていた。今回のIPAの資料では,「従来はソフトウェア開発のための手法だったが今はそれだけじゃない」と。

■IPA文書のメッセージ概要

当初アジャイル開発はソフトウェアエンジニア主体の開発手法でしたが,近年は不確実さに対応するビジネス戦略としても採用され始めて』いると。つまり,IT企業の中で技術部隊ではあるけどソフトウェア開発をしているわけではない連中だってアジャイルを意識した方がいいということになる。ここで,ソフトウェア開発をしていない連中というのは,私としてはSI企業内インフラ屋のことを指しているつもり。(ただしIPA的にはもっと広い意味で使っている)。

■公開文書の体系

今回,上記のWebページでは次の様な文書が公開されている。
 (1) アジャイル領域へのスキル変革の指針 (本ドキュメントの位置づけ)
 (2) なぜ,いまアジャイルが必要か?
 (3) アジャイルソフトウェア開発宣言の読みとき方
 (4) ビジョンとプロダクトの橋渡し(プロダクト責任者)
 (5) アジャイル開発の進め方
 他

■まずは...

まずは (1)〔なぜ,いまアジャイルが必要か?〕の資料から入るのがいい。結局のところ意識を変革できるかどうかがすべてなので,これだけ読んで意識が変わるなら,それだけでもいいかもしれない。さらに言えば,実際にアジャイル開発手法を採用するかどうかは,この文脈の中ではどちらでもいいのではないかとすら思う。

■なぜアジャイルか?

Society5.0時代は,〜中略〜 このような問題には,従来のような「問題を分析して論理的に解決するパラダイム」ではなく「観察とフィードバックによって探索と適応を繰り返す未来創出型のパラダイム」が有効』だから。つまり,「ちゃんと考えればちゃんと答が得られるんだから事前にしっかり検討してから取りかかれよ」なんていうのは,もはや過去の幻想だと。

■『これから何をしたいですか?』

最後のページのメッセージ:『おわりに:あなたは,これから何をしたいですか?』。この問い掛けが,直接的でわかりやすく,パラダイムシフトができていない組織にとっては破壊的ですらある。なぜ破壊的かと言うと,SI事業者の行動原理は「ユーザが自分たちに何をしてほしいか」であって,「自分が何をしたいか/どうしたいか」を考えてこなかったし,何をなすべきかを自発的に決めることは暗黙的に悪いことですらあった。

なお,この資料の最初で,『この資料で理解いただきたいポイント』が4点提示されている。
 (1)未来を自分たちで創り出す
 (2)複雑な問題に対しては,探索と適応のアプローチが有効である
 (3)アジャイルなマインドが重要である
 (4)価値創造社会の持続的発展のカギはアジャイルにある
この『(1)未来を自分たちで創り出す』考え方ができるかどうかがカギになるだろう。これができていないと,続く(2)〜(4)は(1)の考え方ができることが前提になる。

下請けSI屋の中の孫請けインフラ屋の実状は,
・自分たち自身の“未来を自分たちで創る”という発想がそもそも無い。
 「これから〇〇をしたい」という会話が乏しすぎる。
・“開発者”(≒技術者)だという意識すら持っているかどうか怪しい。
 信じられないことに新しい何かの吸収に抵抗を示すことすらある。
このままでは“未来を自分たちで創る”ことは難しい。

■メッセージに共感できるか?

意識が変わらないままだとしたら,『アジャイルで,あなたの身のまわりをワクワク感に満ちたものにしませんか?』という,本書の「アジャイルのススメ」(下記)が魅力的に見えることもないだろう。
  • 顧客にとって本当に価値のあるプロダクトを適切なタイミングで届けたい!
  • ムダな仕事をやめ,意味のある仕事に専念したい!
  • 仕事を通じて学びながら成長したい!
  • 顧客の体験や課題を適宜共有しながら,プロダクトをスピーディに提供したい!
  • プロダクトの提供を通して,社会をより良い未来にしたい!
虚栄ではなくて本心から,これらに共感できるだろうか?

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

■おまけ: その他のドキュメントについて

◆本ドキュメントの位置づけ (アジャイル領域へのスキル変革の指針)
・複数のドキュメントのそれぞれで何を記載しているかの説明。

◆アジャイルソフトウェア開発宣言の読みとき方
・『実践経験の有無に関わらず,アジャイルソフトウェア開発宣 言の存在が知られていない,一部解釈に関して誤解が生じている』そうだ。…ということで,アジャイル開発のコンセプト(「4つの価値とその価値に由来する明確な12の原則」)をちゃんと理解したいなら,これを読むべきだろう。

◆ビジョンとプロダクトの橋渡し(プロダクト責任者)
・従来と最近の時代や業界の背景からのアジャイルに取り組むべき理由が示されている。「なぜアジャイルか」の裏返しだが,「なぜ従来の方法論ではダメなのか」という見方を与えてくれている。
・例えば,下記の様な点:
 - 一様な価値観を仮定
 - 分析と予測が網羅されれば正しい結論が得られるという前提
 - 開発完了までの“プロジェクト”が視点
 つまり,従来の前時代的な価値観へのアンチテーゼがアジャイルだという主張。

◆アジャイル開発の進め方
・具体的な方法論はこのパートだが,内容(スクラム)は,ソフトウェア開発に特化しているようにも思える。

-- 

コメント

このブログの人気の投稿

5600ページのIEEE 802.3-2018が入手可能になった

IEEE 802.3の名称は今では「IEEE Standard for Ethernet」になっている。 「イーサネットとIEEE 802.3は別物なんだよ」という話は,今では昔話でしかない。もうひとつ“いまはむかし”な話をすると,「イーサネットはCSMA/CDだよ」なんて言うと恥をかくのでやめた方がいい。こちらは名称の問題では無く中身の話だが,ここでは詳しい説明は割愛する。 この「イーサネット標準」の2015年以来の改訂版が,2018年8月に発行。6ヶ月のIEEE会員限定期間が過ぎたので,一般にも入手可能になった。ただし個人アカウントは取得する必要がある。この話は以前に書いた ( https://nmizos.blogspot.com/2017/12/ieee802.html 参照)。 https://ieeexplore.ieee.org/document/8457469 このネタをブログにしようと思った動機はタイトルに記してしまった。この規格は改定されるたびにドンドン太って巨大になってきている。本編改訂の間に発行されたamendment (補遺と訳すのがいいのかな)が取り込まれるので,太るのはしょうがない面もある。でもねぇ,ついに5600ページ。もちろん通し読みするようなものじゃない。PDFファイルなので「厚さ」は無いが,印刷したらどれくらいになるんだろう。 参考までに,過去10年の本編のボリュームを比較してみた。  2008 = 5分割,2977ページ  2012 = 6分割,3748ページ  2015 = 4017ページ,56Mバイト  2018 = 5600ページ,98Mバイト 以前は数セクションにファイルを分割して公開されていた。ファイルが大きすぎるのを気にしてたんだろう。2018版も中身は8セクションに分かれている(ページ番号も別に付いている)のを,PDFファイルとしては合体してある。100Mバイト程度のPDFが「デカ過ぎて開けない」ってことも無いだろうから,1本になっていた方が全文検索ができて都合がいい。ちなみにiPadで開いて全文検索しても,今の98Mバイトなら困らない。 参考までに,無線LANのIEEE 802.11の方は,802.11-2016が3534ページ。こちらも結構なもんだ。 --

IEEE802標準文書の入手

■概要 入手方法が変わった。たぶん2017年のどこかから。 ダウンロードの都度メルアド等を入力するのではなくて,メンバ登録&ログイン形式に。 個別の参照(入手)時点の操作も変わった。 概要の表示ページから“Download PDF”を選ぶとPDFファイルが呼び出されるが… 即ダウンロードでは無くて,(ブラウザ依存だと思うがFirefoxの場合は)インラインでPDF表示になるので,その後に表示しているPDFをダウンロードさせることになる。 802.3の場合は困ったことに文書がデカ過ぎる。従来は複数パート(セクション)にPDFが分割されていたが,参照方法が上記の様に変わったのに合わせて,802.3全体が1本のPDFに。なんと4000ページ超,50MB超の1本のPDFになり,それをまとめてインライン表示しようとするので,待ち時間がとても長い。メモリの少ないPCだと途中でアカンことになりそう。   ---- ■操作 入口=  http://ieeexplore.ieee.org/browse/standards/get-program/page/series?id=68 (  http://ieeexplore.ieee.org/  からでもたどれるだろう )。 メニューをたどって,例えばIEEE 802.11(無線LAN)の標準文書を参照しようとすると… “Download PDF”は選択できなくなっている。 画面最上部の“Personal Sign In”からログインすると… “Donwload PDF”が有効になる。 概要でも記したように標準文書フルテキストPDFのダウンロードは,Firefoxの場合にブラウザのインラインでの表示になるので,保存する場合にはブラウザの操作でファイル保存する。 ユーザ登録は“Create Account”から。 入力方法などは自助努力で。(画面のガイダンスや注意事項を読みましょう)。 --

RFCは番号を無駄遣いしていないか?

新規に発行されるRFCの番号が8000番台になっていて,その8000番台も1年くらいで食い潰しそうな勢いだ。実は8年ほど前にも同じ様に「なんと6000番台後半だよ」と思ったのだった。 ところで,RFCの番号って,几帳面にきっちりと順番に使っているわけでは無い。大物RFCにはキリ番を使うことがある様だし(RFC 8200とか),規格のバージョンアップの際には旧番号から覚えやすいものにすることがある(RFC 822 → RFC 2822など)。 …ということは,ところどころ虫食い状態で空き番号がたくさんあるんじゃないかな?と,ふと思った。 RFCの一覧ページはこれ:   https://tools.ietf.org/rfc/ これを眺めると,ところどころに「Not Issued」となっている番号があるので,虫食いになっているのはたしかなようだ。無効化(Obsoletes)されたRFCもたくさんあるけれど,一度は使われた番号だから,これについては「使った」ということでいいだろう。 もう1つの一覧形式で,Mini-Indexページなるものがあった:   https://tools.ietf.org/rfc/mini-index ぱっと見で,虫食い状態がわかる。言い換えるとそれしかわからない。 上記のMini-IndexのHTMLを解析して,具体的にどれくらい虫食いなのかを調べて見た。単なる酔狂でしかないけれど。 結果(RFC 8754まで) 個数 RFC番号  735 8000番台  996 7000番台  973 6000番台  971 5000番台  973 4000番台  982 3000番台 1000 2000番台  995 1000番台  933 999番以下 こうしてみると,最初の999番までが一番大雑把だ。 RFC化の検討に入ったけど最終的に発行されないものもあるから,2000番台の様に完全に埋まることは珍しいと思う。そういう意味では,まぁまぁ,几帳面に番号割当てをしていると思っていいのだろう。 さて,RFC 10000に到達するまで残り約1250。そこに達するのは,だいたい4年ちょっと後の2024年頃だろうか。 【参考: カウントスクリプト】 : count.sh # https://tools.ietf.org/rfc/mini-index